我が家からクルマで15分ほどの、川のほとりに暮らすある女性のお話です。
朝日を浴びて、キラキラと輝く、露の降りた新緑の葉のように清々しいM子さんに出会ったのは
昨年、主人と土地巡りをしている時の事でした。
自分達の予算では、なかなか土地が見つからず、
当てども無く土地巡りをしていた私達は、とある川のほとりの土地にたどり着きました。
いつものように、見に行った土地の近所の方にお話しを伺うべく
レッドシダーの外壁の、小さなかわいらしい木のお家の扉をノックしました。
出てきた女性は、快くいろいろなお話をして下さいました。
それがM子さんでした。
ずっと夢見てきた山梨での暮らしの夢を叶え、
東京から移住されたのは、我が家の主人と同じ10年程前の事。
カメラマンのご主人とお2人で、かわいらしいレッドシダーのお家を建て
豊かな自然の中、楽しい田舎暮らしが始まろうとしていた矢先、
ご主人が病で倒れられました。
生死をさまよう大病で、一命はとりとめられたものの
重度の後遺障害をおってしまったのです。
車椅子に腰かけるか、横になっているかとうい体の状態に加え、
長年連れ添った奥様の事も、分からなくなってしまい、
暴言、暴力も見受けられるような状態になってしまったとの事でした。
彼女は、慣れない土地で、1人、介護、仕事を背負う事になったのです。
ただでさえ求人の少ない田舎で、
ご自身の年齢や、ご主人の介護の合間、という厳しい状況の中
彼女は必死に仕事を探し、勤め先を見つけました。
何か所もパートを掛け持ちし、ご主人の介護をこなす、その日々は
10年経った今も、続いています。
どんなに、心身共につらい日々だろうと思うのですが
彼女の笑顔はキラキラと輝き、
私達に、思いやりや優しさを分けて下さる
心の余裕が満ち溢れているのです。
彼女は言っていました。
真剣に仕事をしなければならなかったから、多くの方々とのつながりができて
見知らぬ土地でも、素敵な人間関係が築けた事。
そして、優しい介護ヘルパーさんに恵まれた事。
くたくたになって帰宅して、ご主人のお世話を終え
見上げる夜空の美しさが、山梨の美しい月が、心を洗ってくれる事。
そして、何より、今は自分の事が分からなくなってしまったけれど
長年、主人が自分を愛していてくれた事。
それが、今の私の支えです。
彼女を思うと、私も主人も胸が一杯になります。
先日、買い物をしていて、彼女に再会しました。
1人だと似合うか分からなくて・・・と彼女が言ったので
980円のワンピースの色選びを一緒にして、ほんのわずかですが楽しい時間を過ごしました。
そういえば以前に、
自分が分からなくなってしまったご主人が、
ごくたまにだけれど、「キレイだよ」って言ってくれる事がある、
と彼女が言っていた事を思い出しました。
えんじ色のワンピースと、ご主人のおむつをかごに入れ、
彼女は、去って行きました。
普段は、仕事着で軽トラックに乗って働き、真っ黒に日焼けしている彼女ですが
お家でご主人と過ごすとき、きっとあのワンピースを着ているのだろうと思いました。
彼女は、厳しい毎日を、今日もキラキラと輝きながら
月が美しく見える川のほとりの、レッドシダーのかわいいお家で暮らしています。
大好きな川のほとりの淑女、M子さん。
心から応援しています。そして、また会いに行きます。